東京高等裁判所 昭和28年(ラ)104号 決定 1953年5月16日
抗告人 佐々木英夫
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、「競売申立書添附の建物登記簿謄本によれば、本件競売の目的不動産は、東京都目黒区上目黒六丁目一千四百九十五番の三家屋番号同町五二七番の二、一、木造瓦葺平家建居宅一棟建坪十七坪二合五勺同所附属一、木造杉皮葺平家納屋一棟建坪十六坪五合であるのにかかわらず、原競落許可決定には、競落を許可した不動産として、右の記載の外、居宅については実測建坪三十三坪七合五勺、納屋については現状(一)(居宅を指す)に合併と表示せられている。これは、建物所有者たる抗告人が登記後増築により右二個の建物を合併したるによるものであつて、これにより右附属建物は消滅したものである。そして原決定の建物の表示は鑑定人川口長助の実地調査による評価書によつたものと思われるが、このような場合には、競売裁判所は、直ちに債権者にこれが補正方を命じ、債権者は、民法第四百二十三条により債務者に代位してこれを是正しなければならないのであつて、もしそうしないと、競売終了による所有権移転登記を所轄登記所に嘱託する場合、嘱託書に原決定記載のとおり記載すれば登記簿とてい触することになり、登記簿の記載どおり記載すれば嘱託書と競落許可決定とが符合しないことになり、いずれにしても登記できないことになる。従つてかかる法規に違背した原決定は違法であるので、「原決定を取り消す。本件競売は許さない。」との裁判を求める」というにある。
しかしながら、記録によれば、本件競売申立書に記載せられ現に競売に付せられた物件は所論の登記簿に記載せられたとおりの建物であることが明らかである。ただ競売手続の過程において、右建物の構造並びに実測坪数が登記簿の表示と符合しないことがわかつたので、競売裁判所は、建物の同一性にはかわりないが、競買申出人の注意を喚起し適正な競買価額の申出をさせるようにするため特に競売期日の公告に不動産の表示として右登記簿どおり記載する外、居宅については実測建坪三十三坪七合五勺、納屋については現状(一)(居宅を指す)に合併と附記したのであるが、それがそのまま原競落許可決定に競落を許した不動産の表示として引用せられたにすぎないのである。このように、競売手続の過程において、競売の目的建物の構造坪数等が登記簿の表示と符合しない事実が判明したときは、それが予め知るにおいては手続の開始を妨ぐべき事実とみられるときは、競売裁判所は、民事訴訟法第六百五十三条の趣旨に準じて処置するのが相当であるが、いやしくも建物の同一性を失わないと認められる限り、何らの措置を講じないでそのまま競売手続を進行して差支ない訳である。従つて本件において問題となるのは、本件建物の構造の変更、すなわち居宅と納屋とを合併したことが果して建物の同一性を失う程度までにいたつているかどうかであるが、このように構造の変更を生じたのは、抗告人が在来家屋に模様替増築を加えたためであり在来建物を取毀の上新らたに築造したものでないから、これがため在来の納屋が滅失したとみることはできず、又、その変更の程度からいつて建物の同一性を失う程度までになつていないと認めるのが相当である。されば債権者に対し本件建物の変更登記手続を命じないでそのまま手続を進行した本件競売手続は正当であつて何ら違法の点なく、又、原決定に競落を許した不動産の表示として登記簿どおり記載した外、実測坪数現状を附記したからといつて、登記簿とてい触する訳ではないのであるから、競売終了による所有権移転登記を所轄登記所に嘱託するにあたり不都合を生ずるようなことはなく、嘱託を受けた登記官吏は不動産登記法第四十九条第五号第七号により受理を拒絶することができないであろう。
以上の次第で抗告人の抗告理由は理由なく、その他記録を精査するも原決定取消の事由となすに足る瑕疵を発見することができないので、抗告人の抗告を理由なしとして主文のとおり決定した。
(裁判長判事 大江保直 判事 岡咲恕一 判事 猪俣幸一)